【6】鳥羽ビューホテル 花真珠 女将 / 迫間優子さん

いい仕事ができる職場であるには、人間関係が大事
女将は人間対人間の潤滑油


鳥羽駅前から車を走らせること約10分。保養所や旅館ホテルが建ち並ぶ安楽島は、海水浴場もあり、多くの観光客でにぎわいます。海を見おろす高台に「鳥羽ビューホテル 花真珠」があります。女将の迫間優子さんは、この宿の娘として生まれました。

女将となって7年目です。なりたくてもなれる職業ではありませんが、自然な流れのまま、母親から交代し、30歳で女将になりました。ずっと近くで母を見ていましたので、仕事に抵抗はありませんだが、ただ仲居さんたちは、長く務める方が多く、自分より年上ばかりで苦労しましたね。宿で働く全員がうまくまわっていくように配慮し、そのためには言いづらいことも言ってきました。駄目なことを怒ったり、注意することはエネルギーのいること。自分の感情は抑えて、人によっては言い方を変えて接してきました。
わたし自身、子どもを授かってから、変わった部分もあります。励ます、誉めるが職場教育の近道と思います。いいところを見つけては、それをきちんと口に出すようにしています。得意な分野を引き出してあげないと、いい仕事になりません。
直接ではなく、ワンクッションいれることで、うまく伝わることがあります。仲介役として、間に立つことも多いですね。パートさんも含めると60人近いスタッフがいます。最近では男の人も入ってきていますが、旅館の仲居は女性の職場。女将はみんなが働きやすくなるためにいる存在。人間対人間の潤滑油です。それに生まれも性格も教育もそれぞれに違って、100%の人間なんていませんから、みんなのいい要素を合わせて、宿のカタチをつくっていきたいと思っています。
旅館組合での会合、旅行会社の打合せ、取材対応があり、館内にいることは少ないですが、全体ミーティングで情報を共有し、組織が一つになるよう心がけています。
宿の経営は、お客さまのニーズに合わせて、柔軟な対応をしていかないといけません。大企業だと難しい改革も、家族経営だからこそできると自負しています。『できない』ではなくて、何でもやってみるチャレンジ精神で取り組み、いいなと思うことは、どんどん実行しています。そして、お客さまの反応を見て、継続や再検討、また思い切って止めたりと、判断を誤らないことが大事です。経営はそんなことの繰り返し。旅館の伝統は、変わらないように見えて、時代に合わせて形を変えてきました。女将の仕事にも、あらたな形があるのだと思います。

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【5】鳥羽料理研究三重三料会 会長 / 松浦貞勝さん

和食に大切なのはさじ加減
職人の技と心意気で日本の食文化を守る


板前は、煮る、焼く、蒸す、揚げる、切るという調理法すべてを理解し、知識や技術を磨いています。素材のよさを全面に出し、旬に技を駆使して、五感で楽しめる料理に仕上げる松浦さん。それぞれに感動があり、続く料理への期待に結びつくような満足があります。

和食の世界で調理法は、感覚に頼ることが多いです。塩加減にしても、指2本でつまむ量か、3本かというような、経験から積み上げた感覚です。若い子から「何グラムですか」と聞かれても、とっさに答えるのは難しいですよ。
和食の基本はいいだしを取ること。前日に昆布をつけて、まずはその昆布の味を見る。その旨味をベースに鰹節を入れて一番だしにします。これがあらゆる和食のベースとして展開でき、だしのうま味によって全体の調和が生まれます。
今はフランス料理にも和の味覚が生かされる時代です。また味覚だけではなく、食文化を勉強しないと上達しないでしょう。道具の一つ、箸は繊細に盛れるまさに日本の食文化ですが、今はフランス人でさえ見倣って、箸を使えない人はいないと言われています。昔は包丁だって右利きのものしかありません。左利きは直されたのです。それはなぜか、右利きか左利きかで盛り方が違ってくるのです。
第62回式年遷宮が斎行された2013年には、「和食」がユネスコ無形文化遺産へ登録されました。そして2016年の伊勢志摩サミット、2017年の全国菓子大博覧会の伊勢開催と、伊勢志摩が注目される行事が続きました。地域振興を図るにも絶好のチャンスだったでしょう。鳥羽・志摩地域は古代に海の幸を献上していた「御食国」であり、「日本の食文化の聖地」。サミットを前に企画された、それらをアピールするツアーでは、英国のシェフ7人が来日し、鳥羽ビューホテルで和食と日本文化を学ぶ機会がありました。前日に会席料理を味わった7人は「季節感を取り入れている」「料理を引き立てる器が素晴らしい」と感激していたことを覚えています。
料理については、季節感や香りを楽しんでもらう工夫はもちろんですが、料理人が食材や自然を敬い、素材の良さをどう生かすかを常に考えて、取り組まねばならないと考えています。今は団塊の世代に教えたり、調理人たちの会合に出向くことも多いですが、これから食を学ぶ方々には、そのことを理解していただいたうえで、和食のよさを守り伝えていってほしいと思います。

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